
「伝統」というと、遠い過去に形成された意匠がそのままそっくり受け継がれているというイメージがあります。しかし、個別の名品をじっくり見ていくと、そこには名人と呼ばれる職人たちが、各自のオリジナリティを発揮して今の形をつくりあげている事実に気づきます。
大内塗りといえば大内人形。しかし、その思わず手にとってみたくなるキュートで麗しい大内人形のかたちは、昔から受け継がれてきたものではありません。原爆で故郷を失った少年が親戚の家に身を寄せ、年上の跡取り娘さんに求婚され、姉さん女房に師事した末に、ふたりで到達した「愛の形」だったのです。

80歳を超えて今もなお毎週のようにボウリングに興じる大内塗りの第1人者・小笠原貞雄さんに、哲学者・吉岡洋が迫ります。細かい指さばきが求められる職人がなにゆえボウリングを? 繊細な美を形作る感性と類稀なる身体性との関係は? 二人の対話はボウリング対決から始まります。

<<目次に戻る
